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まるでシュールストレミングのような過去の日記

      2018/05/02

夢が現実世界の何かを暗示することがひょっとするとあるかもしれない、というのが主な理由で印象的な夢を見た時には目覚めてすぐその内容をメモったり何らかのカタチで文章に残したりして来たしこのブログにも何度か綴ったけれども、それらが役に立ったケースは今までに一度もない。

だからもうやめてしまえばいいのに、懲りずに書く。

何らかの文学作品の選考委員としていろんな本を読んでいる。他にも何人かいる登場人物との会話からするとおそらく新人賞的なモノなのだろうが、原稿ではなく既に印刷され出版されている本や雑誌ばかりなのでおかしいし、読んでいる場面もどんどん変わる。で、何故か古本屋で店主から薦められて三千円で買った本をその場で読んでみると、英語で印刷された内容の隣りの余白ページに読者が勝手に和訳を手書きで書き入れていくというスタイルで、筆跡はバラバラで訳はまったく意味不明しかも本自体古くてボロボロになっている。店主曰く外国の若い女子作家の作品らしい。「なんぢゃコレ!」と最初は戸惑うが、だんだんハマってしまい最終的にはその作品を推そうと決める。「ご自分で書き加えても良いですよ」と言われ何行か書いたりもする。

こんな夢を見た理由は分かっている。先日購入した筒井康隆先生の小説を読んだからだ。

作品名は「残像に口紅を」。
「アメトーーク!」というTV番組の「本屋で読書芸人」の回で紹介されて反響を呼び大増版となった為バンコクの古本屋にお目見えしたに違いない。筒井氏のTwitterでその件を知った私はyou-tubeで番組自体も見たし、(また読みたいな)とも思っていた。

小学生の時に出会って以来大いに尊敬し勝手に師と仰いでいる筒井康隆大先生の文庫化された全作品はもちろん持っていたものの、タイ移住時に泣く泣く処分。しかし、結局寂しくなってバンコクの古本屋や帰国時に某ブックオフで再度購入し始めようやく四十冊近くまで揃えたのであった。

この作品は「世界からことばが消えて行く小説」で、主人公の小説家が「言葉の音(おん)が消えると共にその音を使って表す対象物もこの世から消える」という世界を自ら物語る。文庫本の初版は1995年4月18日に発行(中央公論新社)されており、読んだ当時の私は三十才。不動産会社を辞めまったく違う業界で独立した頃だ。生業として作家になりたいとは思っていなかったけれど、(一作だけでも小説を書いていつかは世に出したい)という野望?だけは心に秘めていた。

時を経て現在。その機会や時間などいくらでもあったにも関わらず、未だ実現されてはいない。特にタイに移住してからの約八年は相当なチャンスだったはずなのに・・・。

それなのに。あー
それなのに、それなのに。

まあ、大手出版社から正式に本を出してベストセラーになるなんてのは夢のような話だけれど、そこに行くまでの過程すら踏んでいないのだから情けない。例えば、作品をどこそこの新人賞に応募してみるとかすらやっていないのだ。

パソコンのホルダー内に眠っているのは未完成の長編がひとつ中編がふたつ、そして一応完成した短編がひとつだけ。
対して、ネット上に書いて来た日記やブログの文章ならば相当量の文字数となる。

そう。私の場合日常の描写的文章ならばいくらでも書けるのだが、こと物語となるとサッパリダメなのである。
貧困な想像力。これは小説を書くに当たって致命的欠陥であり、19才の時に「絵が下手」という紛れもない事実を思い知ってファッションデザイナーへの道を自ら閉ざしたようにもっと早い時期に諦めるべきだったのかもしれない。

しかし、比較的アッサリした性質を自覚している私にあってもその件だけどーしても諦めることができず未だに心の奥底で密かに夢を追っているのは、晩年にデビューする作家が案外多いからなのだろうか。

そんな中、数十年振りに読んだその筒井先生の作品の冒頭部分にうっすらとした光明を見出したのだった。

主人公の作家佐治勝夫は、待ち合わせた喫茶店で評論家の津田得治に対してこう言っている。

「だから、虚構性を強調した、いわゆる本当に小説らしい小説というのが超虚構だとすると、現実にはそういう小説がほとんどだからね。では小説と同じような言語や文章で綴られている私小説や随筆やノンフィクションは何かというと、『超虚構』の『超』を省いた、ただの『虚構』だってことになってくる。つまり、やっぱり虚構なんだ」(*引用:中公文庫、筒井康隆著「残像に口紅を」P13〜P14)

前後の脈絡を簡単に説明すると、現実と虚構について深く考えたり作品に書いたりして来た作家の佐治(*筒井先生御本人を投影していると思われる)が、新作でついに「現実そのものが虚構だ」というところまできてしまったことを危惧しつつ興味を持った知人の評論家津田の提案を受け、新たに実験的小説を書き始める。そのテーマが「ことばが消えて行く世界」という経緯なのである。

そもそも筒井大先生はメタフィクション、つまり小説という物語の中で現実と虚構の関係に言及する(作り話だと意図的に読者に気付かせる)作品の日本におけるパイオニアであり、代表作に「虚人たち」(中公文庫)、「文学部唯野教授」(岩波現代文庫)、「朝のガスパール」(新潮文庫)などがある。*詳しく知りたい方はこちらを参考に。https://pdmagazine.jp/background/metafiction/

氏の作品の主人公が作家であることはしばしばだし、「夢と現実」、「虚構と現実」などがよくテーマとなるのでファンである我々にとってはもう慣れっこであり、本を読みながら時折そのことについて深く考えたりもしてきた。

しかし、今回読み直してみるまでそのことに気付かなかった。いや、今になってようやく気付くべくして気付いたと言えるのかもしれない。

よーするに、「随筆やノンフィクションも虚構である」という考え方についてである。

なるほど。実際私が書いているこのブログだってネットで公開してきた日記だってある部分では創作であり、それを私は意図的に行ってきた。目的は主に読み物として面白おかしくすること、つまりそーやって読者に対しておもねっているワケだ。まあ、細かい記憶が曖昧という理由も若干はあるが。
例を挙げれば会話なんてまさしくそうだ。大体の内容は憶えていたとしても細かい言い回しなど正確に記憶しているはずなどないから、そこに多少脚色が入るのはある意味当然とも言えよう。それらをひっくるめて「ウソ」と言ってしまってはオシマイだが「虚構」とすれば話はキレイに収まる。

やや難解な話ではあるが読者の皆さんにはご理解いただけたであろうか。

というように、仮にコレが小説であったとして主人公が唐突に読者に語りかける手法も先述の「メタフィクション」と言える。

もうお分かりだろうか。
そう。つまりこのような手法を巧みに使えばひょっとして私にも小説が書けるかもしれない。もっと言えば、過去大量に撒き散らしてきた日記などに手を加えることで上手くいけばエンタメ作品として化ける可能性がある、ということになりはしないか。

おお。なんと素晴らしい!

幸いなことに某mixiの日記や某ブログはまだ消えることなくしっかり残っている。それらを利用すればすぐに三つや四つは小説が書けるのでは?などと浅はかな私はすぐに舞い上がってしまうのだった。

もちろん現実はそんなに甘くはない。私の今までの陳腐な人生を綴った日記など腐った魚のごときである。いやそれは言い過ぎか。例えるならばスウェーデンのニシンの缶詰シュールストレミングのようなモノだろうか。そこに貧困な想像力を加えたところでドラマ性などおそらく簡単に生まれはしまい。
ただ、可能性がなくもないというささやかな希望が見えたのも事実。

いや、やはり恐ろしく難解なのではなかろうか、という気もする。だからこそこーして公に発表?しても問題ないのではないか、と。また、おそらく今までにそういう作品もあったに違いない。日記風に書いている話が実は小説であった、などなど。

だからこのアイディア?は著作権フリーだ。できるものならばやってみるがよろし。

ちなみに、私の未完の長編小説のひとつの出だしにこういう一節がある。

「これは小説ではない。個人的に遺しておく記録であり、手記のようなモノ。断っておくがエンターテインメントとして書くのではないから他人が読んで面白いような類いとは違うのだ。万が一何かの拍子で誰かに読まれてしまっても本人に迷惑が及ばぬように偽名を使うけれども、目的はあくまでも忘れてしまわない為。自分が生きてきた証として唯一ここに刻む」

振り返ってみれば実は既にいいセンまではいっているのだ。そしてキッチリ挫折している。

今回もきっと

そーなるのだ。


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