やたらと薄さを推してくるその店
2016/01/12
その眼鏡屋さんは個人店ではなくチェーン店。制服は紺のジャケットというかブレザーでボトムはデニムとスニーカーのコもいるから他は自由なのかな。
当然接客マニュアルがあるワケで、コレがまたちょっと興味深い。
遡れば十代はディスコパブバー等でアルバイト、二十才でハウスマヌカン今で言うショップ店員、三十代でカフェスタッフと接客業歴は長い私としては、自分が客の立場だと店員側の気持ちが分からなくもないし、どちらかと言えば放って欲しい客側の気持ちも分かる。
服屋の時は基本褒め殺しで、とりあえず「お似合いですよ〜」と言っておけば間違いない的なところはあるし、どちらがいいか?と尋ねられれば自分の感覚で答えていた。ま、時には在庫が多い方をススメることもあったにせよ。
だからもちろんアテになどしていないが、色などで悩むと一応店員さんに聞いてみるのだ。
その前に候補の三色のうち黒グレーではないひとつが一体何色なのか分からないような複雑な感じだったので聞くと「茶系ですよ」とのこと。しかし、ライトにかざしてみてもどーにもよく分からない。濃いのでパッと見は黒っぽく見えるのだがグラデーションして黄色になるのだからやはり茶系なのか?などと想像しつつ、まあ、服には合わせ易いかな。などと言って掛け比べていると二十代前半の店員さんも「こちらがお似合いになると思います」と。確かに彼女の言う通り自分でもそれがなんとなくしっくりくるのだった。
結果、自然光の下で見たら濃いグリーンだったワケだが。いい加減なものだな。まったく。
ところで今回その店で眼鏡を買おうと何故思ったのかと言えば、前回帰国した八月、長年使っていた眼鏡のネジ部分がユルくなって取れた時に無償で修理してくれたお返しのつもりだった。蔓の部分が外れてしまって「どうしよう」と困っていたら、某店のサーヴィスが良く、他店で購入した商品も気軽に直してくれるという噂を聞きつけて持って行ったら本当にちゃんと対応してくれた。お陰で気に入っていた眼鏡を捨てることなく今でも使っている。
で、「まあ一本ぐらい買って行こう」とその時店内を探しても気に入った商品が一つもなかったので、先日新しいモデルを見に行ってみたのだった。
しかし、姪っ子の言う通りもはやフツーのタイプでは満足できない私にとって眼鏡を新調するハードルはかなり高い。そんな中、最近の傾向である太いフレームを探しているとようやく何とかイケそうなのが見付かった。ま、半ば無理矢理買ったようなものだが。
で、既存の眼鏡と同じ度数のレンズを嵌めるのだけれど、この後のやり取りにもサーヴィス方針の一端が垣間みられる。
「当店のレンズは無料でお好みの薄さをお選びいただけます」と、自信満々で説明書きを見せる彼女。
「いやいやいやコンドームぢゃないんだから薄さをそんなに推されても……」
美しいニッポン語推進委員会委員(?)の私としてはちょっと引っ掛かる。正確に言えばそこはやはり「当店のレンズは無料でご希望の厚みをお選びいただけます」もしくは「お客様がご希望であればレンズの厚みを薄くすることも無料でできます」であり、選ぶのはレンズの「薄さ」ではなく「厚み」なのである。
などと理屈っぽいことを言っても仕方がないので聞き流すとレンズの薄さ一覧表を見せながら彼女は続ける。
「この商品に合った薄さは1.60でございまして、そちらですと30分でできますがそれより更に薄くしますと一週間お時間をいただきます」
「そーか。オレは薄さ0.02mmがいいのだけどな」とネタを引っぱることもしないが、やはりどーしても薄さを推したいのだろう。
もちろん待つのはイヤなので「オススメでいいです」と答える。まあ、フレームが太いので厚くても問題あるまい。
「BRUTAS Casa」があれば三十分位はラクに潰せるだろう、とソファーで座って待っているとしばらくして店員が寄ってくる。先程と違う男子だ。
「もし店内でお待ちでしたら引き換えレシートをお預かりできますか。出来上がり次第お呼びしますので」
なるほど。指定の時刻前に作業が終われば待ち時間も短縮できるワケだな。
そして、実際五分前に完了したのだった。
この眼鏡店のサーヴィスが良いか悪いかは意見が分かれるところだろうが、私は決して嫌いではない。押し付けがましくもなく、かと言ってアッサリし過ぎているワケでもないからだ。
しかし、商品自体の、品質はともかくデザイン及び価格は正直私がそそられるレヴェルにまで達していないのは紛れもない事実でもある。
何しろ私は変人であり、変わったタイプの眼鏡を好むのだ。
「ならば他へ行け」と某店は決して言わないだろうけれど。
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