本当に泣きたいのはこっちなんだけど
(コレ、わざとだったらスゴいよなあ)。
かなり広いレストランだが、時間が遅くて客はもう私達だけだった。
男五人で食事をしながら会話はいよいよ熱を帯びてきて、時に声を荒げ、論争というよりは言い争いに近い感じとなる。
もちろんどんな状況だって意見のぶつかり合いは起こり得るし、これからいよいよ新たなビジネスが本格的にスタートするとなれば、むしろそれはヒジョーに大切なことのだろう。
しかし今回は、契約当初からの感覚のズレが引き起こした疑念から始まり、膨らんでいく一方の猜疑心が拭えぬままここまで来てしまっているので、その根本が解消できない限り上手くいくはずなどない。
一人の人間が間に入り、その人物の欲とエゴのせいで被害を被ったのは我々よりもむしろA氏だろう。元々はこちらサイドだったO氏が見え透いた絵を描いて我々を騙そうとしたのが発端なのだから。私も含めヴェトナムを、いやビジネスというモノをナメきっている。イマドキあんなオトナがいるなんてまったく驚きだが、見抜けなかった我々にも責任の一端はある。いや、見抜いた上で「利用してやろう」と泳がせたのがあるいはマズかったのかもしれぬが、とにかく、結果的に踊らされたのはこちらだった。
ここで問題となるのが折衝役、クッション的役割の私の存在だ。
既に信用がなくなっている自分の要求を相手、つまりヴェトナム側にストレートに伝えた場合素直に受け取られるかどうか分からない。だからこそ日本的な「根回し」の手段として私が少しは役に立つのかもしれない。つまり、「外堀を埋めてから」というワケだ。
私は私でその気持ちは充分過ぎるほど分かるので、じっくり話を聞き、しっかり理解した上で私の方からベトナム側に投げかける。すると「何故その話を最初からしないのだ!」「日本人同士でグチャグチャ言いやがって!」とボスの逆鱗に触れる。
口止めされていたのだから仕方がない、と、今更言ったところでもう取り返しはつかぬ。一度堕ちた信用を取り戻すのはとてつもない努力が必要なのだ。
とにかく、ハッキリしているのは相手を信用しなければこのビジネスは上手くいくはずがない、という事実。
我々二人はその日を丸々使い、意義や主旨や意向を私が細かく聞いた上でミーティングに臨む。ただ、時間も遅く「食事をしながら」ということに。本来ならば食事中に話せるような気楽な内容ではない。
土曜の夜。翌日早朝に某国へと旅立つA氏にとってそれは今回訪問時の最後のチャンスだった。
「私が間に入って説明しても彼らは気分を害するだけなので、ご自分の言葉で直接伝えてもらいたい」。言いにくい内容が多いけれど、それがビジネスの交渉というモノであるのは国が変わろうと世界共通だ。
かくして、食事中にも関わらず侃々諤々の話が始まる。A氏は私の要望通り直接思いを伝え始めそれは当然のごとく長きに渡る。
途中、ボスの感情が爆発し明らかに反発し始めるが、途中でやめるワケにはいかない。そして、あるタイミングで突然A氏が上を向き、目頭を押さえて涙を流したのである。
「どーして私の気持ちを分かってもらえないのだろう」。
そのことが我々に一瞬で伝わり、苦労を横で見ていた私も感情が溢れるのを止められずもらい泣きだ。耐えられずに横を向かざるを得ないほど不覚にも涙が出てしまった。そして、見ればその場に居る全員が多かれ少なかれ泣いていたのである。
過去にいろんなビジネスの修羅場を見て来たが、こんなことは初めてだった。
33才から51才までのいいオトナが集まってレストランで涙を流すの図。従業員達はいったいどう思っただろう。
しかし、タイミングとしては良過ぎるくらいであり、「泣きたいのはこっちだわ」と正直思ったものの、そんな風に一生懸命思いを伝えてくれたA氏を私は心から評価したい。
ただ、現実はそう甘くはなかった。
涙の後、A氏が突然要求して来たのはある意味とんでもない内容だったのだ。
その後別れてヴェトナム側でミーティングした時、A氏の信用や評価も少しは上がっているだろう、と期待したにも関わらずむしろ逆だった。
ボスは激怒していた。
アイツはなんなのだ。と。
それを聞いて「ああ。もうこの話は難しいな」と、その瞬間は思った。
ここまで頑になられたらこっちも対処のしようがない、と。
そして、彼の言い分をいろいろ聞くうちに、段々と全てが演技のようが気がしてくる始末。
あの涙が演出だったらスゴいとマヂで思う。しかしボスは半ばそう思っている様子なのだ。
もちろん全てが終わったワケではない。これはあくまでもビジネスだ。
できる限りやるしかない。私の仕事はおそらく引き続きA氏の信頼回復に努めることだろう。
昨日一日じっくり考えてみた。
精神的には最悪の気分だけど、
まあ何とかするしかないなあ。
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