センセーと呼ばないで
2016/04/08
例えば自分が上司の立場であれば、部下を育てる時その人間の性質を見極めて対応せねばならない。
叩いて這い上がらせるのか。褒めて伸ばすか。アメとムチを使い分けて叱咤激励の繰り返しである。
私の場合は簡単だ。おだてれば調子に乗ってどこまででも行ってしまうタイプ。使う方なら楽だろうなあ、と思う。しかし逆に人を使う立場になって上手くいった試しがない。そして上手く使ってもらった覚えもない。向き不向きがあるのかもしれないが、どちらにせよそれはきっと大変なことなのだ。
「センセー」「センセー」と廻りから呼ばれ続けていると段々おかしくなって来る。
もちろん私は先生でも何でもないただの変態野郎。なのに、いつの間にかその気になっているからコワイ。人にものを教えるのがどれだけ大変なことか。しかも語学なんて最も幅広く奥が深い類いなのに。
そう。実は日本語の教師としてハノイ郊外の工業大学の生徒達に教えているのだが、現時点で既に60時間以上。最近は生徒が増え一日に九時間、しかも同じ内容を六回とかかなりハードになってきている。全部で120人くらいの生徒が2〜30名に分かれ朝から晩まで次々と教室に来て、聞き慣れない日本人の日本語をただひたすら聞いて憶えようと一生懸命勉強する。私は日本語しか喋らない。いや、喋れないのだ。
簡単に言えば、日本語のネイティヴスピーカーが不足しているだけのこと。日本に渡って日本の企業で働きたい若者達が日本語を勉強する需要が増え続けているヴェトナムにおいて、特にハノイではその傾向が顕著な様子。だから私のようにただ「日本語が話せる日本人」というだけでチヤホヤされる現状である。
いや、実際は少し違う。
タイのバンコクでタイ人に日本語を教えていた経験が役に立っている。
私が移住当初タイ語を勉強する為に通っていた某「A.U.A」は、タイ語のみを使って身振手振りや絵や写真などで意味を説明しつつ「耳で繰り返し聞いて憶える」というスタイルの語学学校で、その「日本語版」を学校側から請われてしばらくの間受け持っていたのだ。
二人でコンビを組み、毎回一つのトピックを決めてそれにまつわる話をするだけなのだが、意味の分かりやすい簡単な日本語しか使えないし、少しでも難しい言葉を発してしまうとそれを身振手振りで説明する為に大汗をかく。それは実際とてつもなく難しい作業で、慣れるまでは大変だったし、変に責任感の強い私はプレッシャーで胃潰瘍になり遂に円形脱毛症(髭だけど)にまでなって半年とちょっとしか保たなかった。
そのスタイルを活用し、要所要所で少し英語を混ぜる方法を編み出した私はそれに自分の名前を付けて「〇〇式」と呼んでいる。英語ができる生徒が多いのでこの方法が実に上手くハマっている気がするのだが、やっているうちにコツを掴んで今では学内で完全なるカリスマ扱いだ。学生達はもちろん帰国子女のヴェトナム人日本語教師達や、大学に先生を派遣している語学学校の経営陣及び大学側から絶大なる評価を受けて調子に乗っている状態なのである。
「〇〇式」はそんなに簡単ではないけれど、慣れてしまえば誰にでもできると思う。標準語が使いこなせる日本人でさえあれば。ただ、現実的には自分の人生経験や思想などを駆使して面白おかしく話す方がウケるので、ある程度年齢が過ぎた人の方が良いのかもしれない。そこに私自身のキャラクターが相俟ってうまくハマったのかもしれないが、それよりも何よりも生徒達の真剣な眼差しを一手に浴びる快感が先生側を育てるのだと思う。ヴェトナム人の若者、特に田舎のコ達の真摯な態度や姿勢を目の当たりにして心打たれない人が果たしているのだろうか。
いずれにせよ、私の会社の提携している語学学校がその大学に入り込む為生徒達の日本語スキルを上げなければならない。それが私のミッションであり、現状週の半分はハノイから車で二時間の郊外に出張している。しかし、そんなことを続ける暇はないので誰かに引き継ぐ必要がある。
問題はそこだ。
自分である程度できたとしても、部下を育てるのが苦手ではお話にならない。分身とまではいわないが、誰かに仕事を引き継がなければ先に進めない。もちろん日本語教師になる為にハノイにやって来たワケではない。やることは他にもたくさんあって既に山積みなのだから。
その前に、ヴェトナム人教師のサポートもせねばならない。彼らだって誰かに教わっているのではなく、先生どころか生徒に毛の生えたようなもの。発音もアクセントもダメダメだから彼らに日本語を使わせるのは危険なのだ。だから本当はCDなどを使って日本語の聴解をひたすらやらせた方が良い。そして、教えるのは文字や文法だけにしなくては。
などと言っているうちにも生徒から電話が掛かって来る。
「センセーはいまどこですか?」「センセー。いつがっこうにくるのですか?」
分かりましたよ。
今から行きます。
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